ショパンはピアノ協奏曲を2曲残してるんですが、オーケストレーションが貧弱だとかショパンはオーケストレーションが苦手だったとかいろいろ言われることが多いです。
この問題については、ピアノが目立ちすぎるのでオーケストラは「いらないよね」っていう意見と、オーケストレーションそのものが「上手くない(苦手)」という意見がごっちゃになっててややこしくなってる気がしますね。
本当に下手だったのか、そんなにいらない子なのか。
実はこれ、答え出ちゃってるんですけど、結論を先に言うと「ショパンの協奏曲のオーケストレーションは時代に合わせたなりのものなので、今の時代の価値観で評価しても意味がない」ということです。これについて少し詳しく書いてみます。
ショパンのピアノ協奏曲の室内楽版とは何か
ショパンの協奏曲といえば、ひところ「室内楽版」というのが流行りましたね。今でこそ珍しくもなく、演奏会でも取り上げられるようになりました。この室内楽版ですが、大きく分けて2つあります。
1. 弦楽四重奏 + ピアノ = ピアノ五重奏版
2. 弦楽五重奏 + ピアノ = ピアノ六重奏版
弦楽五重奏の方はコントラバスが加わってます。
この2つの違いって意識したことありますか?
簡単に言うと、四重奏(ピアノ五重奏版)が「編曲版」で、五重奏(ピアノ六重奏版)が「オリジナル版」というこです。オリジナルというとちょっと適切ではないかもしれませんが、そもそもピアノ協奏曲の編成が弦楽五部なので、五重奏(ピアノ六重奏版)もそのままだという意味でオリジナルということです。四重奏はコントラバスが省かれてるのでそれ用にアレンジされています。書いてみれば当たり前の話ですがちゃんと意識して聴いていましたか?
ショパンの生きてた時代の記録を見ると実際に協奏曲を室内楽の編成で演奏してたようですが、これはオーケストラの縮小版、もしくは簡易版だったのでしょうか?
いえいえ、そういう見方こそが今の時代の価値観なのです。当時は第1楽章を弾いた後に、歌など別の曲を挟んで第2楽章・第3楽章と演奏してたとか。演奏会そのものも今とは全然違っていたようです。
この辺りの事情を詳しくまとめた1冊の本があります。小岩信治さんの著書『ピアノ協奏曲の誕生』(春秋社)です。この本はピアノがピアノになる以前、クラヴィーアと呼ばれてた時代から近代的なピアノになるまでのピアノ協奏曲の変遷を辿り、各章ごとに具体的に作曲家を取り上げて作品を分析しています。
ショパンのところは第6章ですが、かなり詳細に書かれています。この本自体、ショパン以前ショパン後と分けて読むこともでき、ある意味「ショパン本」といっても過言じゃないかもしれませんね。ショパン愛好家は絶対に読んでおいた方がいいお薦めの一冊です。これを読む前と読んだ後じゃピアノ協奏曲の聴き方が変わりますよ。それくらいインパクトのある本です。
そしてこの小岩さんが関係したCDが「浜松市楽器博物館コレクションシリーズ」として小倉貴久子さんの演奏で出ています。ショパンが生きてた当時のプレイエルで演奏されたこのCDは、歴史的な背景を考慮した素晴らしい内容です。1番は少し早めのテンポをとりつつピアノは揺らさず弦との掛け合いも呼吸ぴったりで新鮮な響きが聴かれます。2番はさらに濃密なアンサンブルが作品の魅力を引き出してます。どちらも耳に残る。1度聴くと2、3日は脳内で再生される素晴らしい演奏です。
さて、長々と書きましたが一口にオーケストレーションと言ってもその役割、ショパンが生きてた時代はどういうふうに演奏されていて、当時の楽譜出版など含めた音楽界を取り巻く状況はどうだったのか、キチンと検証しないと今の時代の基準で語っても意味がないのですね。車や電車に比べて馬車は遅いねって言ってるようなもんです。
何度も書きますが小岩さんの本はショパン以外のところも面白いので読んでみてください!
2022年1月25日