バカっ振り視聴記

CDラック

「バカっ振り」とはバカみたいに凄い指揮(指揮者)という意味です。
ショパンの協奏曲を指揮者とオーケストラにこだわって聴いてみました。

視聴記制作に関する注意
・なるべく同じ時間帯に聴くようにした。
・一曲は中断せず必ず通しで聴くようにした。
・複数曲を連続しての視聴は原則としてしていない。
・CDの他にDVD、LPも含まれる。
・録音年の記述は正直かなり怪しい。

 下の一覧は所有音盤の中から選んで聴いた音盤で、ポーランド系の録音、邦人全般、一般的に定番とよばれているもの、特殊な内容のもの(古楽器演奏、室内楽版、弾き振りなど)は今回の企画の主旨に合わないためなるべく避けるようにした。表記は録音年順に並べてあるので同一音盤に収録されていても分けている場合もある。
 下の表記で「第一楽章提示部、第二主題カット」と書かれているものはヘ短調の場合、第31小節から第64小節、ホ短調は第25小節から第123小節の省略がほとんどで部分的に第一主題も含まれている。

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ヒストリカル(1950年以前)

  1. 指揮:ユリウス・プリュヴァー (1874-1943)
    ピアノ:アレキサンダー・ブライロフスキー (1896-1976)
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1928
    収録:ホ短調 媒体:CD
    THE PIANO LIBRARY PL248
    第一楽章提示部、第二主題カット。ショパンの協奏曲の最も古い録音。ブライロフスキーはキエフ出身。アメリカで最初のショパン全曲演奏会を行った。ルバートは自由な語り口。ピアノとオケが纏綿と歌い美しい。みずみずしい感性で目の覚めるような一枚。

  2. 指揮:フィリップ・ゴーベール (1879-1941)
    ピアノ:マルグリット・ロン (1874-1966)
    オーケストラ:パリ音楽院管弦楽団 録音:1930
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    WING WCD 42
    第一楽章提示部、第二主題カット。冒頭に咳が入っているがLiveではないと思う。ピアノはリキみが無く音に艶がある。フレーズの呼吸や間は自然で、スケール感のあるルバートで音楽を大きくシメる。フラッターのようなポルタメントも個性的。

  3. 指揮:フリーダー・ヴァイスマン (1898-1985)
    ピアノ:モーリツ・ローゼンタール (1862-1946)
    オーケストラ:ベルリン国立歌劇場管弦楽団 録音:1930, 31
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Biddulph Recordings LHW 040
    第一楽章提示部、第二主題カット。第二楽章前奏カット。第三楽章は低弦部が無い。第一楽章は1931年に、第二、第三楽章は1930年に録音された。ローゼンタールはショパンの弟子のミクリの弟子。1876年から1878年までヴァイマールでフランツ・リストにも師事している。感情を抑えた格調高い音楽。第一楽章621小節からピアノとオケが合わない箇所も出てくるが問題ではない。フィナーレのコーダ512-516小節間を和音で処理している。
    Perl盤の方がスクラッチノイズが気になるが好みの問題。

  4. 指揮:ジョン・バルビローリ (1899-1970)
    ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン (1887-1982)
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1932
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    LEGENDARY RECORDINGS ADSLR102
    第一楽章提示部、第二主題カット。後奏カット。
    とにかく速過ぎてあっという間に終わる。

  5. 指揮:ジョン・バルビローリ (1899-1970)
    ピアノ:アルフレッド・コルトー (1877-1962)
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1935
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    NAXOS Historical 8.110612
    第一楽章最後の主題の繰り返しをピアノで弾く。オケの編曲はコルトー版。
    オケは抑制のきいたカンタービレで品がいい。コルトーより歌わせている。

  6. 指揮:ジョン・バルビローリ (1899-1970)
    ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン (1887-1982)
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1937
    収録:ホ短調 媒体:CD
    LEGENDARY RECORDINGS ADSLR102
    第一楽章提示部、第二主題カット。全体的にキビキビした演奏。
    ピアノは走り気味だがオケはよくついていってる。録音はノイズも少なく聴きやすい。

  7. 指揮:ジョン・バルビローリ (1899-1970)
    ピアノ:ヨーゼフ・ホフマン (1876-1957)
    オーケストラ:ニューヨーク・フィルハーモニック 録音:1937 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    VAIA/IPA 1002
    第一楽章提示部、第二主題カット。第一楽章、後奏カット。
    コルトーとの録音の陰鬱な雰囲気とは違いライブらしい演奏会向けの華やかな演奏。
    ピアノは即興とは別の楽譜の違いによるものと思われる音が聴ける。第一楽章が終わると拍手。針飛び箇所が数カ所ある。このディスクにはホ短調も入っているがURANIA盤よりもノイズが多い。※実は最近、同録音のプライベート盤のレコードを入手して聴いてみたが、上記CDのような金属的な音と違い、しっとりと落ち着いた感じだったので驚いた。(針飛び箇所も同じ)このピアニストの持つエンターテインメント性は、時折評価を曇らせることもあるかもしれないが、きら星のような音の輝きはやはり魅力的で耳に残る。

  8. 指揮:ジョン・バルビローリ (1899-1970)
    ピアノ:ヨーゼフ・ホフマン (1876-1957)
    オーケストラ:ニューヨーク・フィルハーモニック 録音:1938 Live
    収録:ホ短調 媒体:CD
    URANIA URN 22. 208
    第一楽章提示部、第二主題カット。全体的にノイズは多め。
    ピアノは懐の深いルバート。ペダルを抑えた演奏は、せっかちで素っ気ない印象を与える。第一楽章が終わると拍手。第二楽章は典雅な響きでペダルの使い所が効果的。

  9. 指揮:アレクサンダー・フォン・クライスラー ( – )
    ピアノ:ゼヴェリン・アイゼンベルガー (1879-1945)
    オーケストラ:Cincinnatti Conservatory Orchestra 録音:1938 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    OPAL CD 9858
    クリンドワース版。19世紀の香り漂うロマンチックな音楽。なかなかいいバカっ振りなのに指揮者の情報は無い。
    アイゼンベルガーはレシェティツキー門下。この時代のポーランド系ピアニスト特有の大きなルバート。タッチはウエットで速くなる箇所も絶対に叩きつけない。耳障りなところがまるでない。
    ノイズは多いが聴きにくくはない。

  10. 指揮:ディミトリ・ミトロプーロス (1896-1960)
    ピアノ:エドワルド・キレニー (1910-2000)
    オーケストラ:ミネアポリス交響楽団 録音:1941
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Mitropoulos Edition 189.630-2
    第一楽章提示部、第二主題カット。秀演。
    終始一貫して美的均衡を保ち、近代的なフォルムを示している。

  11. 指揮:ブルーノ・ワルター (1876-1962)
    ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン (1887-1982)
    オーケストラ:ニューヨーク・フィルハーモニック 録音:1941 Live
    収録:ホ短調 媒体:CD
    THE PIANO LIBRARY PL315
    説明不要の名指揮者ワルターとルービンシュタインの共演。ワルターの黒い炎といかれたような勢いのピアノが奇跡的な名演を生んでいる。爆速のフィナーレは圧巻。録音は非常に悪い。

  12. 指揮:ウィレム・メンゲルベルク (1871-1951)
    ピアノ:テオ・ヴァンデルパス (1902-1986)
    オーケストラ:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 録音:1943 Live
    収録:へ短調 媒体:CD
    Q DISC 97016
    第一楽章提示部、第二主題カット。第一楽章、後奏カット。独特の弦のうねりが横に螺旋を描く。慣れないと喧しく感じるかもしれない。(第二楽章)緩急の付け方が鍵盤奏者的発想。邪魔にならない程度の弦の旋律の追加と、ピアノパートの補強の管が追加されている。爆発するときのキレっぷりはハンパない。(第三楽章)
    ちなみにDVD付きのCD10BOXでないと完全な録音は聴けない。単発の「THE MENGELBERG EDITION Vol. 8」は音質が悪く、フィナーレの前半5分が消失しているので注意。

  13. 指揮:ウィリアム・スタインバーグ (1899-1978)
    ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン (1887-1982)
    オーケストラ:NBC交響楽団 録音:1946
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    RCA BVCC-35090
    第一楽章、後奏カット。オケは約700人の応募者の中から選ばれた最強軍団。活動期間も短かった。スタインバーグは補助指揮者を務めていた。ピアノ・オケ共に非の打ち所が無い演奏。将棋でいうところの名人戦か。第一楽章182小節、弦のリズムを変えてピアノから引き継いだ緊張感を持続させつつ199小節からはオケがぐっとテンポを落として音楽を作り、268小節のsostenutoからはピアノに音楽作りがバトンタッチされる。名手たちがお互いを尊重しあい良い音楽を作っている好例。
    録音はモノラルで悪くはないが音割れしている箇所がある。

  14. 指揮:セルジウ・チェリビダッケ (1912-1996)
    ピアノ:ラウル・コチャルスキ (1885-1948)
    オーケストラ:ベルリン交響楽団 録音:1948 Live
    収録:へ短調 媒体:LP
    REPLICA RPL 2462
    指揮者は晩年の録音にみられるスタイルとは逆に、若々しくスマートな内容。コチャルスキはミクリの弟子。晩年の録音らしく、こちらもあっさり歌わせている。

  15. 指揮:ウィリアム・スタインバーグ (1899-1978)
    ピアノ:アレキサンダー・ブライロフスキー (1896-1976)
    オーケストラ:RCAビクター交響楽団 録音:1949
    収録:ホ短調 媒体:CD
    RCA 09026-61656-2
    第一楽章提示部、第二主題カット。ピアノ・オケ共に深い響き。とにかくオケからピアノへの引き渡しが上手い。指揮者は人の心が読めるのかもしれない。第一楽章377小節と378小節の間に一小節分のインターバルを置き曲の雰囲気を一瞬で変える。独創的かつ非常に効果的。
    ピアノは最初のレコーディングから変わらず若々しくファンタジーに溢れている。

1950年代

  1. 指揮:エルンスト・アンセルメ (1883-1969)
    ピアノ:エレン・バロン (1898-1969)
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1950
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    Audio Archive Classics CLA009
    前のめり気味のピアノ。思い出したような総奏。酔っぱらってるような第三楽章。

  2. 指揮:ヨネル・ペルレア (1900-1970)
    ピアノ:ギュリモー・ノヴァエス (1896-1979)
    オーケストラ:バンベルク交響楽団 録音:1950
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Vox Legends CDX2 5513
    指揮者はオランダ出身、後年はアメリカを中心に活躍した。オケはピアノに合わせて遅めのテンポ設定。つなぎめを短くして隙間を埋めるように鳴らす。ロマンツェはしみじみ歌われる。
    ピアノはリズムの取り方にクセがある(第一楽章、最後の左手のオクターブ)。テンポはかなり遅め。要所要所で予想を裏切るようなことをワザとしている。

  3. 指揮:ワルター・ジュスキント (1918-1980)
    ピアノ:ウィトルド・マルクジンスキ (1914-1977)
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1950
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    SERAPHIM AA・5074
    指揮者はプラハ出身。ジョージ・セルに師事した。オケはキレの良いリズム感で音を重ねていく。
    マルクジンスキは第3回ショパン・コンクールで第3位。1949年のショパン没後100年記念のツアーを経て録音された。速いフレーズものっぺらぼうに弾かず、わずかに加速させて広がりを作る。フィナーレの歌い回しもさすがに上手いが、高音の跳ね上がりが拍子木みたいになってるのがちょっと気になる。

  4. 指揮:ウィレム・ヴァン・オッテルロー (1907-1978)
    ピアノ:アレグザンダー・ウニンスキー (1910-1972)
    オーケストラ:ハーグ・レジデンティ管弦楽団 録音:1950
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    EPIC BC 1037
    第一楽章提示部、第二主題カット。指揮者はハーグ・レジデンティ管の常任指揮者を1949年から1972年まで28年間務めた。オケは気持ち速めのテンポでキビキビした演奏。オケのサウンドは魅力があるのにピアノとのバランスが悪い。
    ウニンスキーは亡命者として国籍を持たずに第2回ショパン・コンクールに挑み優勝した(と言ってもコイン・トスで決まった)。第一楽章147小節、左手の和音をザクザク刻んだり細かいクセもあるがフィナーレは品良くまとめている。スピードに乗せてメロディーを裏で歌わせるのが上手い。録音は50年かどうかは分からない。

  5. 指揮:ヴァルター・ゲール (1903-1960)
    ピアノ:ノエル・ミュートン=ウッド (1922-1953)
    オーケストラ:ネザーランズ・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1950
    収録:ホ短調 媒体:LP
    THE MUSICAL MASTERPIECE SOCIETY MMS-35
    ピアノは譜読みをほとんどせずに弾いているのか、所々通常と違う音が聴ける。オケも古いタイプの演奏。ミュートン=ウッドは若々しく内から湧き出る音楽を自由に表現している。リズム感も個性的。

  6. 指揮:ヴァルター・ゲール (1903-1960)
    ピアノ:ノエル・ミュートン=ウッド (1922-1953)
    オーケストラ:チューリッヒ放送管弦楽団 録音:1950
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    JMF MMS4
    オケは弦楽部のソロをフィーチャーして巧みなアンサンブルを聴かせてくれる。ピアノは感覚的に弾きこなしているが、その方がこの作品の魅力は生きる。ガキっぽい神経質さが表現されていて見事。

  7. 指揮:フリッツ・ブッシュ (1890-1951)
    ピアノ:クラウディオ・アラウ (1903-1991)
    オーケストラ:ニューヨーク・フィルハーモニック 録音:1950 Live
    収録:へ短調 媒体:CD
    URANIA URN 22.145
    高音がキツく、ピアノが入るとオケがほとんど聴こえない。
    過熱気味のアラウに対して、オケは大きく歌い最後まで安定している。

  8. 指揮:レオ・ブレッヒ (1871-1958)
    ピアノ:ユリアン・フォン・カーロイ (1914- )
    オーケストラ:ベルリンRIAS交響楽団 録音:1950 Live
    収録:へ短調 媒体:CD
    MELODRAM MEL18025
    第一楽章、後奏カット。とても静かにはじまるが、すぐにキビキビした演奏に変わる。
    ピアノのカーロイは第2回ショパン・コンクール第9位。速い箇所を指先で流すように歌う。タメも効いてて上手い。
    オケも引きどころ、押しどころをわきまえていて好演。押しどころでは爆発する。響きも豊かで厚い。
    音質はライブ録音ということで全般悪い。

  9. 指揮:オットー・クレンペラー (1885-1973)
    ピアノ:ギュリモー・ノヴァエス (1896-1979)
    オーケストラ:ウィーン交響楽団 録音:1951
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    URANIA SP 4204
    現代的な演奏に耳が慣らされていると、重心が低く、遅い演奏に感じるかもしれない。細かいディティールの作り込みは徹底しており、客観的かつ冷静に音を重ねていく。ノヴァエスはブラジル出身。大指揮者を相手に女王らしく自らの演奏を貫いている。

  10. 指揮:アレクサンドル・ガウク (1893-1963)
    ピアノ:ゲンリヒ・ネイガウス (1888-1964)
    オーケストラ:ソビエト放送交響楽団 録音:1951
    収録:ホ短調 媒体:CD
    DENON COCQ-83663
    ガウクはオデッサ出身、ペテルブルグ音楽院でグラズノフに作曲を学んだ。門下にはムラヴィンスキー、スヴェトラーノフなど。オケは各楽器が分離してよく聴こえる。スコアに忠実な堅い印象。
    ピアノは繊細だが充実した響き、デリケートだが芯の通った音楽。第二楽章のピアノの音は心にストンと落ちてくる。
    録音は時代なりの音。聴きづらくはないが音が痩せてて全般パワー不足。

  11. 指揮:キリル・コンドラシン (1914-1981)
    ピアノ:ベラ・ダヴィドヴィチ (1928- )
    オーケストラ:モスクワ交響楽団 録音:1951
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    Melo D 1087-1088
    コンドラシンらしくオケをよく鳴らしている。室内オケのような繊細な響きから、ロシアのオケらしい厚みのあるサウンドまで引き出しの多さを感じさせる。正確なアンサンブル特有の豪快な音圧。
    ダヴィドヴィチは第4回ショパン・コンクール(ショパン没後100年)の覇者らしく技巧的にも文句無し。一つ一つのフレーズを大切に伝えてくれる演奏。柔らかく広がりのある高音域の響きは美的センスを感じさせる(R.レヴィーン女史の61年の録音でも同じような性格の響きを聴くことができる)。ピアノ、オケ共にプロ意識の高い録音。

  12. 指揮:フリッツ・レーマン (1904-1956)
    ピアノ:ステファン・アスケナーゼ (1896-1985)
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1952
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    Deutsche Grammophon 00289 477 5242
    指揮者はマンハイム出身。音楽一家に育ち、晩年はミュンヘン音楽大学で後進の指導にあたった。演奏はピアノ、オケ共にひとつひとつの楽句の作り込みがしっかりしていてテンポが遅く感じられるが、実際は遅くはない。ただ、歌い込んでる分、結果的に時間はかかっている。第三楽章は標準のテンポ。作品(録音)としての完成度は非常に高い。アスケナーゼのピアノはリリカルで精神性も高く理想的な演奏。

  13. 指揮:エイドリアン・ボールト (1889-1983)
    ピアノ:フリードリッヒ・グルダ (1930-2000)
    オーケストラ:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1952
    収録:ホ短調 媒体:CD
    GREAT PIANISTS OF THE 20th CENTURY 456 820-2
    バラキレフ版。ボールトはイギリスのチェスター出身。ライプツィヒでレーガーに作曲を学び、ニキシュから指揮を学んだ。バラキレフの編曲はピアノとオケのコントラストを強調し、よりピアニスティックな面を追求しているので腕っ節の立つピアニスト以外は挑戦しない方が無難。グルダのキレっぷりはライブのときのルービンシュタインに匹敵する。

  14. 指揮:ハンス・スワロフスキー (1899-1975)
    ピアノ:ミエチスラフ・ホルショフスキー (1892-1993)
    オーケストラ:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 録音:1952
    収録:ホ短調 媒体:CD
    RELIEF CR 911023
    スワロフスキーはシェーンベルクとウェーベルンに音楽理論を、R・シュトラウスに指揮を学んだ。門下にメータなどがいる。オケは全ての楽器の音色が柔らかく溶け合い音響に独特の厚みを加えている。地の底から沸き上がるようなダイナミクス。
    ピアノは数多くの音色の引き出しを持った感じだが録音が悪く分かりづらい。一つ一つの響きに魂があり、自らの意思で生きようと輝いている。音楽というよりはドラマであり、神々しささえ感じる。

  15. 指揮:アンドレ・クリュイタンス (1905-1967)
    ピアノ:マルグリット・ロン (1874-1966)
    オーケストラ:パリ音楽院管弦楽団 録音:1953
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    TOSHIBA EMI TOCE-8828
    第一楽章提示部、第二主題カット。その他、大幅に編曲されている。メサジェの編曲とのことだが詳細は不明。芝居がかったアレンジもあって、粗野で下卑たよなサウンドに聴こえなくもないが、それがフランスらしいといえばそうなのかもしれない。
    ピアノは技巧のキレも良く、あっさり歌って男気を感じさせる。大きなルバートも嫌味がない。

  16. 指揮:アルフレッド・ウォーレンステイン (1898-1983)
    ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン (1887-1982)
    オーケストラ:ロスアンジェルス・フィルハーモニック 録音:1953
    収録:ホ短調 媒体:CD
    RCA BVCC-35090
    指揮者はロスアンジェルス出身。ロスアンジェルス・フィルの音楽監督を務めていた時代の録音。アメリカ人指揮者がメジャー・オケの音楽監督に就くのは彼が最初だった。演奏はしっかりしていて襟を正したくなるような完成度の高さ。録音向けに周到に準備されたのだと思う。
    ピアノはヴィルトゥオジティも影を潜めて安定志向へとシフトしている。第二楽章の最後など達観している。ルービンシュタインのキャリアを差っ引けば、外へと向かう音の質は、実はショパン向きではなかったのかもしれないとか思ったりもする。

  17. 指揮:アルトゥール・ロジンスキ (1892-1958)
    ピアノ:パウル・バドゥラ=スコダ (1927- )
    オーケストラ:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 録音:1953
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:LP
    Westminster WL 5308
    ヘ短調、ホ短調共に第一楽章提示部、第二主題カット。指揮者はポーランド出身、アメリカで活躍。『ムツェンスク郡のマクベス夫人』のアメリカ初演を指揮した。晩年の録音だが衰えは感じさせない精力的な演奏。
    ピアノはペダルの使用を抑えフラットに描くタイプ。使用する箇所も非常に効果的。タッチで音色をコントロールしている(ここまで見事に弾き分けている人はあまりいない)。低音の跳ねるような音が特徴的。
    録音は低域が足りず、高域がザラついているが奥行き感がありよく聴こえる。

  18. 指揮:シャルル・ミュンシュ (1891-1968)
    ピアノ:アレキサンダー・ブライロフスキー (1896-1976)
    オーケストラ:ボストン交響楽団 録音:1954
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    RCA 09026-61656-2
    ミュンシュがボストン響の首席常任指揮者を務めていた絶頂期の録音。オケは早めの速度で歌い一言で言ってカッコイイ。各楽器の音が立ってるので大音量で鳴らしても輪郭がハッキリしている。対するピアノは情緒に欠け、散漫な印象を与える。弾き急いでいる感じ。それでもこのコンビが実現した理由は、恐らくミュンシュの音楽設計に技術レベルで合わせられるピアニストが他にいなかったからだろう(レーベルの契約の問題も考えられる)。なるほど第一楽章終盤の速いパッセージなどブライロフスキーがノッてきたときの青い炎を思わせる冴えは、オケとのコントラストも見事でゾクっとさせられる。第二楽章中間部のレチタティーヴォは戦前派の面目躍如といったところか。

  19. 指揮:オットー・クレンペラー (1885-1973)
    ピアノ:クラウディオ・アラウ (1903-1991)
    オーケストラ:ケルン放送交響楽団 録音:1954 Live
    収録:ホ短調 媒体:CD
    URANIA SP 4230
    ピアノは荒っぽいが良く歌わせている。第一楽章、徐々にオケのテンションが上がっていくのがおもしろい。
    各楽器のバランスの移動が上手く、音楽的に自然な響き。

  20. 指揮:アンドレ・クリュイタンス (1905-1967)
    ピアノ:クララ・ハスキル (1895-1960)
    オーケストラ:フランス国立管弦楽団 録音:1954 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    Music & Arts CD 922
    第一楽章提示部、第二主題カット。第一楽章、後奏カット。第二、第三楽章の速度が速いのはライブだからだと思われる。フランスらしい熱狂的なサウンド。第二楽章の後半、ずっと話し声(アナウンス?)が聞こえる。
    ピアノは重心の低い深みのあるタッチ。気が急いているのか、もつれる部分もある。最晩年の録音にはないキレ味の鋭さがある。フィナーレのたたみかけは指回りも速く、迸るパトスは霊感にあふれている。何派にも属さないハスキルだけの演奏。
    録音状態は悪い。

  21. 指揮:ヴァーツラフ・スメターチェク (1906-1986)
    ピアノ:ハリーナ・チェルニー=ステファニスカ (1922-2001)
    オーケストラ:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1955
    収録:ホ短調 媒体:CD
    SUPRAPHON COCQ-83816
    スメターチェクはチェコ・フィルでオーボエ奏者として活躍していた経歴の持ち主。オケの響きの中核も管にあり、キレの良い弦も感覚的な意味でのタンギングに近い。第三楽章の副主題などリズミカルで調子はいいが、上手く聴こえるように演奏しているだけのようにも聴こえる。
    チェルニー=ステファニスカはダヴィドヴィチと同じく第4回ショパン・コンクール第1位。豪快なデュナーミクは男性的でダヴィドヴィチと正反対のタイプ。右手と左手の響きを自在に操り(嘘のような話だが)誠に器用。2台のピアノで弾いてるのかもしれない。録音については音質が良いというわけでもないがオケの響きも充分で奥行きのある音像。

  22. 指揮:アルチェオ・ガリエラ (1910- )
    ピアノ:ゲザ・アンダ(1921-1976)
    オーケストラ:フィルハーモニア管弦楽団 録音:1956
    収録:ホ短調 媒体:CD
    TESTAMENT SBT ・1066
    ガリエラはミラノ出身。協奏曲の録音が多いらしい。鳴らすところは思い切って鳴らすメリハリのある演奏。頭の中が真っ白になる金管。
    ピアノはペダルを抑えた演奏。味のあるポルタメント。前時代のヴィルトゥオーゾタイプとは時代を分ける現代的なショパン演奏の先駆け。奔放なテンペラメントはアルゲリッチ的(時代で言えばアルゲリッチがアンダ的というべきか)。フィナーレはリズム感も抜群で大変愉快。根っからの天才肌。
    オケも最後まで引かずにピアノと一体となって素晴らしい音楽を作ってくれる。

  23. 指揮:ヴィルヘルム・シュヒター (1911-1974)
    ピアノ:ユリアン・フォン・カーロイ (1914- )
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1956
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    EMI ELECTROLA C 047-29146
    シュヒターはカラヤンの副指揮者として59年に初来日し、その後すぐにN響の常任指揮者となった。第一楽章助奏部、音価を気持ち早めに切って輪郭をハッキリさせている。全体的にバランス良く鳴らしている。
    ピアノはクセも無く丁寧に弾いている。解釈に若干迷いを感じるところがある。(第一楽章冒頭、第二楽章中間部手前)

  24. 指揮:ヴィルヘルム・シュヒター (1911-1974)
    ピアノ:ユリアン・フォン・カーロイ (1914- )
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1957
    収録:ホ短調 媒体:LP
    EMI ELECTROLA C 047-29146
    第一楽章提示部、第二主題カット。
    ピアノは硬質なサウンド。指回りも早く、第一楽章展開部などはスピードに乗ってるというよりも弾き流しているように聴こえてそっけない。ただ、第二楽章など歌いどころは心得ており、そつのない音楽作り。
    オケはやはり全体的にスマートな印象。第三楽章、260-271小節間は上手く弦をコントロールしてシンフォニックなリズム感を出している。こういった細かい歌い回しに職人的なこだわりを感じる。

  25. 指揮:フェリックス・プロハスカ (1912-1987)
    ピアノ:エドワルド・キレニー (1910-2000)
    オーケストラ:オーストリア交響楽団 録音:1957
    収録:ホ短調 媒体:LP
    MASTERSEAL MS-77
    録音は時代なりの金属的な古くさいサウンド。特に指揮者・オケの魅力を感じるところはない。キレニーの歌い回しはミトロプーロスとの録音より自由度が増している。正直、途中弛むが感覚が麻痺してくると心地よい。

  26. 指揮:ユージン・グーセンス (1893-1962)
    ピアノ:アビー・サイモン (1922- )
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1958
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:LP
    HMV ALP1580
    ヘ短調、ホ短調共に第一楽章提示部、第二主題カット。指揮者はロンドン出身。「春の祭典」のイギリス初演を指揮した。オケはよく統率されていて最後まで一糸乱れぬといった感じ。迫力と気品を兼ね備えている。
    ピアノは落ち着いた速度でデリケートに弾く。ボリュームを抑えつつもの凄い速さで弾ききるあたりは相当な腕前。

  27. 指揮:ウィレム・ヴァン・オッテルロー (1907-1978)
    ピアノ:ステファン・アスケナーゼ (1896-1985)
    オーケストラ:ハーグ・レジデンティ管弦楽団 録音:1959
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Deutsche Grammophon 00289 477 5242
    指揮者のオッテルローはオランダ出身。読響の名誉指揮者。オケはしなやかさと強靭さを兼ね備えた演奏。ホールの鳴りを生かして一割増大きく聴かせる。
    ピアノはテンポを自然に揺らして粘り強く歌う。技巧の冴えも抜群で、他のピアニストの演奏では聴こえない部分もクリアーに響く。情報量も豊富でショパンが託した歌をもれなく伝えてくれる。

  28. 指揮:ユージン・グーセンス (1893-1962)
    ピアノ:アン・シャイン (1939- )
    オーケストラ:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 録音:1959
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    KAPP RECORDS KSC 5003
    どこか野暮ったい演奏に聴こえるが指揮者のせいではないと思う。ウィーン式管楽器の持つ魅力を存分に堪能できる。
    ピアノは若々しく屈託のない演奏。

  29. 指揮:エイドリアン・ボールト (1889-1983)
    ピアノ:バルバラ・ヘッセ=ブコフスカ (1930- )
    オーケストラ:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 録音:1959
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    WESTMINSTER GOLD WGS-8190
    オケは絞り出すような暗いサウンドで劇的に鳴らす。第三楽章のコル・レーニョは木の鳴りが無くスタッカートで弾いてるように聴こえる(68年のルービンシュタイン&オーマンディ盤も同じ奏法)。
    バルバラ・ヘッセ=ブコフスカは第4回ショパン・コンクール第2位。同じポーランド組のチェルニー=ステファニスカなどと共に合宿で研鑽を積んだ。打鍵が少し重く感じるが、指先から弾けるような音色はコンクール上位の二人に劣らず魅力がある。節度のあるルバートでお手本のような演奏。

  30. 指揮:ハンス・ミュラー・クライ (1908-1969)
    ピアノ:ブランカ・ムスリン (1920-1975)
    オーケストラ:シュトゥットガルト交響楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:LP
    CAUDAL CLASICO M. 50-045
    ホ短調、第一楽章提示部、第二主題に入るところでピアノが入る。第二楽章、50-100小節間カット。第三楽章92-320小節間カット。オケは弦が美しい。ピアノは歌い方に若干クセ有り。響きは硬質だがきれい。機械的な制約のせいだと思うが、全般詰め込むような演奏で聴く者よりも録音を優先したようで残念。(以上ホ短調)
    ヘ短調はカットなし。ピアノはねずみが駆け回るようなフレージングが個性的。出だしのアタックを抑えめに沸き上がるように弾く。録音は60年じゃないと思う。

1960年代

  1. 指揮:ペーター・マーク (1919-2001)
    ピアノ:傳聰 (1934- )
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    Westminster WST-17040
    指揮者はスイス出身。指揮活動をしながら途中2年間だけ音楽活動を離れ仏門にはいるという異色の経歴を持つ。オケは木管を力強く鳴らしてピアノの背景に埋もれさせずに絡みを強調している。ピアノにお任せではなく本来はこうあるべき。中でもホルンの上手さが目立っている。
    傳聰は第5回ショパン・コンクール第3位。ポーランドで勉強した後、イギリスに渡った。左手の流すようなリズムの取り方が上手い。指の一本一本がしなやかで、軟弱ととられるかもしれない。これも録音は60年ではないかもしれない。

  2. 指揮:ハンス・スワロフスキー (1899-1975)
    ピアノ:メナーエム・プレスラー (1928- )
    オーケストラ:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    Concert Hall Society M2314
    第一楽章、後奏カット。オケパートは旋律を追加するなどの工夫がされてる。
    プレスラーは打鍵は強く腕っ節も立つ。ややタメが芝居がかっている。個性的なタッチで、第一楽章中間部など非常にユニークな音が聴ける。

  3. 指揮:ウラディミール・ゴルシュマン (1893-1972)
    ピアノ:レナード・ペナリオ (1924- )
    オーケストラ:コンサート・アーツ管弦楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    CAPITOL RECORDS P8366
    指揮者はパリ生まれのロシア人。セントルイス響の名誉指揮者。オケは速めのテンポでダイナミクスの幅も広い。第一楽章提示部は旋律の流れも自然でスムーズにピアノにつなげる。演奏の質としては悪くはないのに詰め込む感じで余韻もへったくれもない。
    ピアノは音色が深く、あっさり感動を誘う。テンポが速すぎて音がゴチャゴチャと整理しきれていないところもあるが、フィナーレは品を失っていない。

  4. 指揮:ミヒャエル・ギーレン (1927- )
    ピアノ:オラツィオ・フルゴーニ (1921- )
    オーケストラ:ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    VOX STPL 513.420
    指揮者はドレスデン生まれ。音楽活動当初はピアニストとして現代音楽を意欲的に取り上げていた。オケは跳ねるようなリズム感で重くならず、スッキリとまとめていて好サポート。
    ピアノはオンとオフの切り替えが上手く、色彩感は無いが表現力がある。線の細さを豊かな響きでカバーし、デリケートに歌う。フィナーレはリズム感も良く、歌い回しに個性が出ている。
    全体の構成として、第二楽章は詰められるところは詰めようといった感じ。

  5. 指揮:シャルル・ミュンシュ (1891-1968)
    ピアノ:ゲーリー・グラフマン (1928- )
    オーケストラ:ボストン交響楽団 録音:1960
    収録:ホ短調 媒体:LP
    RCA VICTROLA VICS-1030
    第一楽章提示部、第二主題カット。
    弦の響きが晴朗で綺麗。定位がハッキリしていて生演奏を聴いてるよう。スコアを片手に鑑賞したい人にはベスト。
    ピアノの音質は歯にモノが詰まったような感じの音で聴きづらい。

  6. 指揮:ハインリッヒ・ホルライザー (1913- )
    ピアノ:アダム・ハラシェヴィチ (1932- )
    オーケストラ:ウィーン交響楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    PHILIPS SFX-7525
    ホルライザーはミュンヘン出身。現代物のオペラに定評のある指揮者。抑制の効いた分析的な演奏。管は控えめに弦を主体とした組み立て。全体的にホ短調と同じく徹底した伴奏とも言えるが、第二楽章中間部の弦のトレモロなどオケが主張し出すとピアノがかすむ。
    ピアノはハラシェヴィチ本来の魅力が生きている。音楽の隙間を埋めるような、粘りのあるアゴーギク。フィナーレは歌い回しも抜群でさすがの出来。

  7. 指揮:ウィレム・ヴァン・オッテルロー (1907-1978)
    ピアノ:アレグザンダー・ウニンスキー (1910-1972)
    オーケストラ:ハーグ・レジデンティ管弦楽団 録音:1960
    収録:ホ短調 媒体:LP
    PHILIPS A 00651 R
    オケは音の重なりよりも旋律線を重視した音楽作りで木管が良く歌う。特にフィナーレのファゴットなど見事。
    ピアノは華麗なテクニックで速いフレーズも見事に弾ききっている。余分な感情移入は省いて冷静に音を重ねているが、フィナーレでは駆け足で音を詰め込む強引さもある。

  8. 指揮:ロベルト・ヴァーグナー (1915- )
    ピアノ:フェリシア・ブルメンタール (1908-1991)
    オーケストラ:インスブルック交響楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    CONCERTO ROYALE 206220-360
    オケはピアノに合わせて歌わせつつも熱演している。もしかしたら一部手を加えているかもしれないが録音(状態)が古く細かいところまで確認できない。
    ピアノは一見荒々しく弾いているように聴こえるが、フレーズはきまりよくしっかり歌わせている。ポーランド的ルバート。デリカシーには欠けるが感受性は豊か。

  9. 指揮:ラファエル・クーベリック (1914-1996)
    ピアノ:クララ・ハスキル (1895-1960)
    オーケストラ:パリ音楽院管弦楽団 録音:1960 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    LIVING STAGE LS 4035178
    1960年1月31日にパリで催された演奏会の録音。ハスキルはこの年の12月7日に亡くなっている。

  10. 指揮:イーゴリ・マルケヴィチ (1912-1983)
    ピアノ:クララ・ハスキル (1895-1960)
    オーケストラ:コンセール・ラムルー管弦楽団 録音:1960
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    PHILIPS PHCP-9532
    なにげにマルケヴィチはエコール・ノルマルでコルトーにピアノを習っているので、ハスキルとは同門共演となる。かなりのバカっ振り。オケパートは大きく改編されており全身全霊を込めて歌う(コルトー版使用。コルトー自身が録音したものから若干変更箇所有り)。気合いの乗ったハスキルも堪能できる。第二楽章、左手の伴奏は格調高く品がある。

  11. 指揮:ピエール・デルヴォー (1917-1992)
    ピアノ:エリック・ハイドシェック (1936- )
    オーケストラ:コロンヌ管弦楽団 録音:1961
    収録:ホ短調 媒体:CD
    EMI 7243 5 85222 2 8
    第一楽章提示部、第二主題カット。指揮者はフランス出身。パリ音楽院でピアノをイーヴ・ナットに師事している。ヒステリック気味な弦で切り刻むような演奏。第一楽章中盤、ピアノとオケの呼吸が重なって大きなうねりを出す。
    ピアノは一筋縄ではいかないタイプ。第一楽章、ピアノの導入部直前に何かやっている。フレーズのディテールを感覚的に変形させる。フランス人特有の機知のせいか、聴くのに極度の集中力が要求される。
    オケの名前は指揮者コロンヌの名前からとった。

  12. 指揮:アルヴィド・ヤンソンス (1914-1984)
    ピアノ:ベラ・ダヴィドヴィチ (1928- )
    オーケストラ:モスクワ放送交響楽団 録音:1961
    収録:ホ短調 媒体:LP
    MELODIYA 00661
    指揮者はラトヴィア出身。何度も来日し日本の音楽界の発展に大きく貢献した。
    演奏はクセは無いが、音色はロシアのオケらしく独特の温度を感じさせる。推進力のあるドスの効いたリズム感。第二楽章出だしの込み上げてくるような弦は美しい。
    ピアノは冒険もせず安定を優先している。フィナーレはテンポを落とすところはグっと落とすなど、繰り返される主題の表情付けに工夫がみられロンド本来の面白さを聴かせてくれる。ちなみにAMERICAN RECORDED PREMIEREというシリーズの同音源のレコードは指揮者名がAlexander Yansonsとなっている。アメリカ表記なのだろうか?

  13. 指揮:ロベルト・ベンツィ (1937- )
    ピアノ:ニキタ・マガロフ (1912-1992)
    オーケストラ:コンセール・ラムルー管弦楽団 録音:1962
    収録:ホ短調 媒体:CD
    PHILIPS PHCP-9532
    指揮者はマルセイユ出身。幼少の頃クリュイタンスに師事している。オケは速めのテンポで歯切れの良い歌い口。管の活躍が際立っている。
    ピアノはインテンポの手前で変なタメを作らず、ためらわずにテンポを決める。上手い人の典型。

  14. 指揮:キリル・コンドラシン (1914-1981)
    ピアノ:エミール・ギレリス (1916-1985)
    オーケストラ:モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1962 Live
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Melodiya MEL CD 10 00787
    コンドラシンがモスクワ・フィルの音楽監督・首席指揮者時代の録音。細かな指示をしっかり分けるなどトレーニングの後が窺われる。録音のせいだと思われるが木管の音が背景に埋もれがち。
    ギレリスはスタジオでもホ短調を録音しているが、そちらの方が響きも充分でギレリスの良さを確認できる。こちらも悪くはないが、Liveなりの音、Liveなりの演奏の出来。

  15. 指揮:アンタル・ドラティ (1906-1988)
    ピアノ:ジーナ・バッカウアー (1913-1976)
    オーケストラ:ロンドン交響楽団 録音:1963
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    MERCURY UCCP-9467
    指揮者はハンガリー出身。リスト音楽院でコダーイ、バルトークに学び彼らの音楽を得意とした。ミネアポリス響の音楽監督を経てヨーロッパで活躍していた時期に録音されたもの。非常にしっかりとした音作りで緻密なアンサンブルを聴かせてくれる。ヘ短調の弦の歌い出しは見事。
    ピアノは強靭で正確なタッチ。僅かなフレーズにも響きを与え、弾き流すことをしない。ホ短調、第二楽章は優しく歌い胸を打つものがある。ピアノ・オケ共に穴のない秀演。

  16. 指揮:ヤーノシュ・クルカ (1929-2001)
    ピアノ:タマーシュ・ヴァーシャリ (1933- )
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1964
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    DEUTSCHE GRAMMOPHON 457 299-2
    後年、ヴァーシャリは両協奏曲をノーザン・シンフォニアと共に弾き振りで録音し直しているが、そちらの方が何倍もいい。この録音に聴かれるペラペラ感(薄いという意味ではない)は無くなり、タッチもしっとりとして音楽性に深みも増している。オケの出来も比較にならないほどノーザン・シンフォニアの方が良く、そちらは旋律に膨らみがあり、金管の咆哮は劇的ながら出しゃばらず、低弦は箱の鳴りまで音楽的。同じ弾き振りでもツィメルマンはレーベルを変えなかったがピアノは二の次になり、ヴァーシャリはあっさりとレーベルを変えた。ただ、演奏の内容はともかく何度も再販する企業努力は認めなければならない。

  17. 指揮:イェジー・セムコフ (1928- )
    ピアノ:タマーシュ・ヴァーシャリ (1933- )
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1965
    収録:ホ短調 媒体:CD
    DEUTSCHE GRAMMOPHON POCG-90417
    指揮者はポーランド出身。ムラヴィンスキーの助手を務め、エーリッヒ・クライバー、ブルーノ・ワルターにも師事している。オケは演奏上の問題だと思うが弦の鳴りが大きなビブラート状になってて耳障り。艶のある弦の魅力は聴けるがお国訛りが強い。所々で音楽の流れが止まるのは、後でいじくりまわしたせいかもしれない。
    ちなみに上のクルカ/ヴァーシャリ盤(457 299-2)にもこの録音と同じものが「クルカ指揮」とクレジットされて入っている。音質は457 299-2の方が低音が機械的にブートされてて今風。

  18. 指揮:ジョルジュ・セバスティアン (1903-1989)
    ピアノ:レーヌ・ジャノリ (1915-1979)
    オーケストラ:南西ドイツ放送交響楽団 録音:1965
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    ACCORDS 4767948
    指揮者はハンガリー出身。バルトークとコダーイに学び、ミュンヘンでワルターに師事し、ライプツィヒ・ケヴァントハウス管、モスクワ放送響、パリのオペラ座と欧州の主要なオケを渡り歩いた。演奏は静寂を上手くコントロールしスケール感を出す。ピラミッド型に音を重ねて空間の広がりを感じさせる。ヘ短調のフィナーレ、コル・レーニョも貴族的で品がある。
    ピアノは細かい休符もひと呼吸置いて丁寧に切って弾く。水墨画のような淡い陰影。美しく詩を読むような呼吸のルバートは本能に訴えかける快さがある。ヘ短調の第二楽章、40小節目の左手もモダンな響きでセンスがいい。

  19. 指揮:マルコム・サージェント (1895-1967)
    ピアノ:アール・ワイルド (1915- )
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1965
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Chesky Records CD93
    ピアノ・オケ共に一部手が加えられている。ショパンをと言うよりも「良い音楽」を知っている人たちの音楽。ピアノは速いフレーズも柔らかく、華麗な技巧の誇示など無いが加減を知っている。フィナーレのオーケストラなど立派過ぎて涙が出る。

  20. 指揮:ハインリッヒ・ホルライザー (1913- )
    ピアノ:アダム・ハラシェヴィチ (1932- )
    オーケストラ:ウィーン交響楽団 録音:1965
    収録:ホ短調 媒体:LP
    PHILIPS SFX-7525
    オケは堅く地味な演奏。ザラついた弦が良い意味で味わいを出している。優しく包み込むような伴奏中の伴奏といった感じ。
    ピアノは独特の土臭さは消え、ベタな演奏で面白味に欠ける。といっても高いレベルでの話ではある。

  21. 指揮:ルドルフ・ケンペ (1910-1976)
    ピアノ:シューラ・チェルカスキー (1911-1995)
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1966
    収録:へ短調 媒体:CD
    Profil CD PH 04015
    木管の音が細かな息づかいまで良く聴こえる。ピアノは劇的な響き、独特のリズム感覚、このピアニストにしかない音色。
    オケもきめ細かくピアノをサポートしている。普通の指揮者が蔑ろにしがちな所も生かしている。このディスクでしか聴けない箇所多数。ピアノ・オケ共にあっさりしているが、物足りなさは感じない。

  22. 指揮:ジョン・プリッチャード (1921-1989)
    ピアノ:チャールズ・ローゼン (1927- )
    オーケストラ:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 録音:1966
    収録:へ短調 媒体:CD
    MAESTRO SBK 64047
    オケは序奏からドラマチックに盛り上げる。木管を抑え気味に使うなど、コンセプトに不要な要素は切り捨てる割り切り感はすごい。
    ピアノは所々フレージングが音楽的でなくなる。指回りは速い。力み過ぎて息切れしている。タメに転じているように見せかけているが、ごまかしきれていない。80年代MTVで流行ったような歌い回し。第三楽章の思い切って鳴らす和音は劇的で魅力的。

  23. 指揮:デヴィッド・ジョセフォヴィッツ ( – )
    ピアノ:メナーエム・プレスラー (1928- )
    オーケストラ:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 録音:1966
    収録:ホ短調 媒体:LP
    Concert Hall Society SMS-2408
    オケは全体的に柔らかく歌う。最後までかき立てるものが何もない癒し系サウンド。だからといって感傷的過ぎるというわけでもない。結局、悪い意味で淡々とした演奏。
    ピアノはキーの深い金属的なサウンド。第一楽章中盤以降、若干走り気味。

  24. 指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ (1928-2002)
    ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル (1915-1997)
    オーケストラ:ソヴィエト国立交響楽団 録音:1966 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    Melodiya MEL CD 10 00735
    録音状態が悪く木管がほとんど聴こえない。音圧とアタックのみ。会場の雑音も多め。
    ピアノも録音状態が悪いので響きが充分に伝わってこないが、正確な指さばきは確認出来る。
    ちなみにリヒテルはコンドラシンとOp.22のライブ録音を残しているが、そちらは凄い。

  25. 指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ (1923- )
    ピアノ:アレクシス・ワイセンベルク (1929- )
    オーケストラ:パリ音楽院管弦楽団 録音:1967
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    EMI 7243 5 74959 2 9
    パリ音楽院管弦楽団後期の録音。この後オケは解散し、ミュンシュを迎えパリ管弦楽団として再出発する。この録音ではクリュイタンスを失い落ち込むどころか、気持ちの充実した演奏が聴ける。ドスの効いた低音、ねばりのある歌い回し。ヘ短調の第三楽章、オケの全合奏に手が加えられている。
    ピアノは10年間の充電を経て復帰後すぐの録音。抜群のテクニックで指回りも速く、細かくニュアンスをつけて歌い上げている。ホ短調、フィナーレのロンド主題は見事。ホ短調は技に溺れているととられかねない感もあるが、ヘ短調などオケと共に熱演でもっと評価されもいいと思う。

1970年代

  1. 指揮:セルジウ・コミショーナ (1928- )
    ピアノ:アリシア・デ・ラローチャ (1923- )
    オーケストラ:スイス・ロマンド管弦楽団 録音:1970
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    DECCA UCCD-7042
    指揮者はルーマニアの首都ブカレスト出身。アメリカで活躍していた時代の録音。パワー溢れる豪快な演奏。オケの持つポテンシャルをフルに引き出している。
    ピアノはどっしりとした構えの安定感ある演奏。スイス・ロマンド管との見事なコントラストで色彩豊かに描いている。ヘビー級の演奏。ラルゲットは名演の部類に入ると思う。

  2. 指揮:トーマス・シッパーズ (1930-1977)
    ピアノ:アンドレ・ワッツ (1946- )
    オーケストラ:ニューヨーク・フィルハーモニック 録音:1970
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    SONY SBK46336
    シッパーズはアメリカ出身。エール大学でヒンデミットに習っている。若くして亡くなった。オケは序奏から思い切りよく歌わせている。
    ピアノは打鍵も強く、歌わせる箇所は目一杯タメを作って歌わせる。ダイナミクスの幅も広くところどころ持ってかれる。右手に比べて左手のキレがイマイチなのは、手首ではなくタイプライター的な弾き方をしているからかもしれない(全般そうだが、特に第三楽章冒頭で顕著。手が大きいのかもしれない)。太い筆で一気に書くといった感じ。ピアノ・オケ共にスケールも大きく、いかにもアメリカ好みの力演。

  3. 指揮:アンドラーシュ・コーロディ (1922-1986)
    ピアノ:シャーンドル・ファルヴァイ (1949- )
    オーケストラ:ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1970
    収録:ホ短調 媒体:CD
    LASERLIGHT 14 003
    指揮者はブダペスト出身。67年からブダペスト・フィルを振っている。サウンドは光彩に欠けフラットに描かれている。
    ピアノはドイツ系の足下をしっかり見つめた丁寧な演奏。フィナーレは覇気が足りない。
    録音も演奏も一世代前のもの。ただ、西欧化、近代化が全て良いとは限らない。

  4. 指揮:ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー (1931- )
    ピアノ:エフゲニー・モギレフスキー (1945- )
    オーケストラ:ワスクワ放送交響楽団 録音:1970
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    VICTOR SMK-7800
    ロジェストヴェンスキーがモスクワ放送響の首席指揮者を務めていた時代の録音。ロジェストヴェンスキーは父親も指揮者で、学生時代はピアノを第1回ショパン・コンクール1位のレフ・オボーリンに習っている。
    このディスクではロジェストヴェンスキーのplastiqueな魅力は聴くことができない。ただ、若干導入部であっさり過ぎるくらいあっさり入ったりするところはらしいと思う。

  5. 指揮:ヤン・クレンツ (1926- )
    ピアノ:ディノラ・ヴァルシ (1939- )
    オーケストラ:モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団 録音:1970
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:LP
    PHILIPS 6833 067
    ヘ短調、ホ短調共に第一楽章提示部、第二主題カット。指揮者はポーランド出身。ワルシャワ音楽院で学んでいる。音をよく伸ばし気持ち良く歌わせている。ヘ短調では特に管がよく鳴っている。
    ピアノは速くて正確な指回り。もう少しオケにつけ入れさせるスキがほしかった。絞り気味のアタックが時々肩すかしになる。装飾的フレーズの処理がいささか雑に感じるところもある(ヘ短調、第二楽章)。ホ短調、第二楽章後半は詰め込み過ぎ。録音時間のせいだと思われる。

  6. 指揮:ヘリベルト・バイセル ( – )
    ピアノ:アビー・サイモン (1922- )
    オーケストラ:ハンブルグ交響楽団 録音:1972
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    VOX BOX CDX 5002
    指揮者のバイセルはこの録音の翌年からハンブルグ響の首席指揮者となり、後に名誉指揮者の称号を与えられている。どことなくアカ抜けないが勇壮なショパン。唸るような弦が特徴的。
    ピアノは情熱的に大きく歌う。このコンビでショパンのオーケストラ作品全てを録音している。

  7. 指揮:ロリン・マゼール (1930- )
    ピアノ:イスラエラ・マルガリート (1944- )
    オーケストラ:ニューフィルハーモニー・オーケストラ 録音:1973
    収録:ホ短調 媒体:CD
    LONDON 430 407-2
    夫婦共演。第二楽章のオケの処理に特徴がある。

  8. 指揮:ボリス・ハイキン (1904-1978)
    ピアノ:ウラディミール・フェルツマン (1952- )
    オーケストラ:モスクワ国立フィルハーモニック・アカデミー交響楽団 録音:1975
    収録:ホ短調 媒体:LP
    eurodisc 25 933 HK
    ハイキンはミンスクの生まれ。モスクワ音楽院でコンドラシンを育てている。
    芯の通った弦と、ふくよかな金管がいかにもソビエトといった感じ。残響が多く、全体的に夢想的な雰囲気。最後までバランス良く好演。ピアノは力みが無く内省的。気付くと音の世界に引き込まれている。オケはモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の別称。

  9. 指揮:ポール・フリーマン (1936- )
    ピアノ:デビッド・サイム (1949- )
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1976
    収録:ホ短調 媒体:LP
    Musical Heritage Society MHS3823
    上手いしよくまとまってはいるが、ただそれだけ。ピアノも個性と自己流の微妙な境目。全体、音楽的な流れに欠け、途中ダレた感じがするのは否めない。

  10. 指揮:ポール・フリーマン (1936- )
    ピアノ:ジョエラ・ジョーンズ ( – )
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1978
    収録:ホ短調 媒体:CD-R
    Musical Heritage Society MHS3863
    オケは音も張っていて気持ちがいい。特に第三楽章では木管がよく歌う。ピアノはベーゼンドルファーを使用。機械的なタメた歌い回しはあまり感じがよくない。音色も変化に乏しく淡白。

  11. 指揮:レオニード・ニコラーエフ ( – )
    ピアノ:ミハイル・ヴォスクレセンスキィ (1935- )
    オーケストラ:モスクワ放送交響楽団 録音:1979
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    TRITON DMCC-26017
    オケは残響が多めで目にしみるほど豪快に鳴らしている。音が大き過ぎてつぶれ気味な部分もある。第二楽章の最後が不自然にフェードアウトするのは器械屋のせいか。
    ピアノはオボーリンの愛弟子。1927年のコンサートの再現と思って聴くと感慨深い。夢幻的な響きの中に1本筋を通した弾き方で最後まで安定している。フィナーレは歌っているのか?

  12. 指揮:ズービン・メータ (1936- )
    ピアノ:マレイ・ペライア (1947- )
    オーケストラ:ニューヨーク・フィルハーモニック 録音:1979
    収録:ホ短調 媒体:CD
    SONY FDCA 64
    メータがニューヨーク・フィルの音楽監督を務めていた時代の録音。
    商品的な価値は高く、穴のない演奏。メータがというよりはニューヨーク・フィルが上手い。
    ペライアは他の録音にみられるような「攻め」の姿勢はなく、全体オケに押され気味。仕上がりもイマイチのようでリズムに若干のブレがある。だが、生理的に心地よい演奏を心得ている。
    録音も良く文句なし。

1980年代

  1. 指揮:ヴラジーミル・ヴェルビーツキー (1943- )
    ピアノ:タチアーナ・シェバノワ (1953- )
    オーケストラ:ソビエト国立交響楽団 録音:1981
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    VICTOR VIC-2352
    指揮者はレニングラード出身。世界各国の指揮者コンクールで入賞している。ホイップするような弦、柔らかく膨らみのある木管。底を高めにした丁寧なダイナミクス。
    シェバノワは第10回ショパン・コンクール第2位。第一、第二楽章は緩めのテンポでじっくり歌わせる。やや斜に構えて丁寧過ぎるきらいもあるが上品。フィナーレは人が変わったように爆発する(多少バランスを上げてるのかもしれない)。粒立ちのよい指回りは華麗というより壮麗で圧巻。

  2. 指揮:クルト・マズア (1927- )
    ピアノ:アンネローゼ・シュミット (1936- )
    オーケストラ:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 録音:1982
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    Deutsche Schallplatten TKCC-15143
    指揮者は現ポーランドのシレジア地方出身。音楽とは直接関係はないが、指揮者とライプツィヒの関わりについて次のエピソードを紹介しておく。ベルリンの壁崩壊直前、旧東ドイツの政府に対する反政府デモ組織の本拠地がライプツィヒにあった。党の幹部が反政府デモ組織を武力によって制圧しようとライプツィヒ一の賢者マズア楽長に伺いを立てたところ、もの凄い剣幕で異議を唱えられた。このことで党による武力制圧は事実上白紙となり、ライプツィヒに住む多くの若者の未来が救われた。
    録音はゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督を務めていた時代のもの。実直に作品と向き合いながら旋律はしっかりと歌い、ロマン的な響きを聴かせてくれる。

  3. 指揮:アンタル・ドラティ (1906-1988)
    ピアノ:アンドラーシュ・シフ (1953- )
    オーケストラ:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 録音:1983
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    LONDON F35L-50105
    かなりテンポを絞り込んで(マエストーソ♪=112前後)作品の美しさを引き立たせている。これは晩年の巨匠に見られるスタイルではなく、緩徐楽章を中核に据えることの究極のデフォルメと考えられる。一小節一小節が絵画のように紡がれていてうっとりする。第二楽章最後のファゴットソロも成功している。
    ピアノの音色は裏返り消えるような高音が本当に綺麗。音楽全体のバランスを考えつつ内声を浮かび上がらせる奏法は、このピアニストのセンスだけでなく確かな技巧を裏付けている。第一楽章291小節目からのフレーズはため息が漏れるほど美しい。

  4. 指揮:ミラン・ホルヴァート (1919- )
    ピアノ:スティーヴン・デ・フローテ (1953-1989)
    オーケストラ:スイス・イタリア語放送管弦楽団 録音:1983
    収録:ヘ短調 媒体:DVD
    Silverline Classics 80008
    指揮者はクロアチア出身。88年のバルト&ブライドン盤と同じ場所での録音だと思われるが、観客は無く響きも深く広がり、まるで別のオケのように立派に聴こえる。
    ピアノのスティーヴン・デ・フローテは南アフリカ出身(といっても白人系なので見た目から出身地は想像できない)。 1977年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの覇者でショパンのスケルツォの実況録音も残されている。36歳の若さで亡くなった。演奏は技術面は完成している。情熱に欠けるが節度があって心地よい。録音は良くないが映像資料としては一級品。

  5. 指揮:クルト・マズア (1927- )
    ピアノ:アンネローゼ・シュミット (1936- )
    オーケストラ:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 録音:1984
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Deutsche Schallplatten TKCC-15143
    シュミットは父親が音楽学校の校長をしていたらしい。フレージングが個性的でヴィルトゥオーゾタイプ。跳ねるようなリズム感が少し気になる。メンデルスゾーン指揮、クララ・シューマンのピアノが現代に甦ったらなんて想像しながら聴くと酒もすすむ。

  6. 指揮:ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー (1931- )
    ピアノ:ヴィクトリア・ポストニコワ (1944- )
    オーケストラ:モスクワ放送交響楽団 録音:1985
    収録:ホ短調 媒体:CD
    AUDIOPHILE CLASSICS APL 101.502
    夫婦共演。バラキレフ版。オケのサウンドはかなり独特。安易にハリウッド・サウンドに陥らないあたりはさすが。ピアノは一つ一つの粒が揃っていて歌い回しも上手い。フィナーレはロジェストヴェンスキーとポストニコヴァの意思が噛み合っておらず失敗してる。音質はクリアー過ぎて耳が疲れる。

  7. 指揮:エンリケ・バティス (1942- )
    ピアノ:エヴァ=マリア・ズーク (1946- )
    オーケストラ:ロンドン・フィルハーモニー・オーケストラ 録音:1987
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    Alfa-1030
    バティスはメキシコ出身の指揮者。ワルシャワ音楽院で学んでいる。バティスの振るショパンは個性的で秀演。
    金管のポイントを気持ちずらすなど随所で音の厚みを出す工夫をしている。第一楽章、ピアノの導入部では弦の息の長いアクセントが音楽の流れをスムーズにしている。ピアノはゆっくり歌わせていて腰のあるルバート。一つ一つの音が立っている。

  8. 指揮:ジュラ・ネーメト (1930- )
    ピアノ:イシュトヴァーン・セーケイ (1960- )
    オーケストラ:ブダペスト交響楽団 録音:1988
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    NAXOS 8.550123
    指揮者、ピアニスト共にハンガリー出身。オケは低域が厚く響きも豊富。ピアノは美音を奏でるタイプではないが指回りは速い。速いだけでなく音楽的な組み立てがしっかりしているが、たまに破綻している。

  9. 指揮:フィリップ・アントルモン (1934- )
    ピアノ:寺田悦子 (1950- )
    オーケストラ:ウィーン交響楽団 録音:1988
    収録:ホ短調 媒体:CD
    PONY CANYON D32L0007
    オケはメリハリの効いた折り目正しいサウンド。古典派寄りでロマンチックになり過ぎない。ウィーンらしさは感じさせず、インターナショナルな響き。タイミング良くオイシイところに切れ込んでくるあたりは、ピアノを知り尽くした指揮者に拠るところが大きいと思われる。
    ピアノはスッと息を飲むような呼吸法。ごまかしがなく、力で持っていくこともできる。相当上手い。レコーディングに携わったスタッフもほとんど日本人のようだが、音作りは左右への広がりもバランス良く、それぞれの楽器の音が明瞭に聴き取れる。

  10. 指揮:ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー (1931- )
    ピアノ:ヴィクトリア・ポストニコワ (1944- )
    オーケストラ:ソヴィエト国立文化省交響楽団 録音:1988
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    MELODIYA C 10 31785 003
    第一楽章提示部、第二主題カット。オケの音作りは85年の録音と近い。ロジェストヴェンスキーは『音楽現代』2003年12月号のラフマニノフに関するインタビューでオーケストレーションは自ら校訂(つまり編曲ではないということ)し、演奏者の判断でカットもすると語っていた。この曲の編曲はロン・クリュイタンス盤と同じ。第一楽章最後はシャッフルビート的なリズムを強調してかなり独創的。
    ピアノはぐっとテンポを絞り、バラキレフ版で録音したホ短調より見せ場はないが、フィナーレには多くのアイデアが盛り込まれていて充実している。

  11. 指揮:ロデリック・ブライドン (1939- )
    ピアノ:ツィモン・バルト (1963- )
    オーケストラ:スイス・イタリア語放送管弦楽団 録音:1988 Live
    収録:ホ短調 媒体:DVD
    Silverline Classics 80008
    録音状態はあまり良くない。ツィモン・バルトの指は細くて長い。よく聴くと音色も使い分けていて繊細。フィナーレのリズムの取り方もおもしろい。悪い点はライブなので仕方がないのかもしれないが、ミスはともかくとしてフレーズにムラがある。

  12. 指揮:リボル・ペシェク (1933- )
    ピアノ:イダ・チェルネツカ (1949- )
    オーケストラ:スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1989
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Sonata 91016
    指揮者はプラハ出身。アンチェル、ノイマンに師事している。弦は高音が伸びやかに歌われ爽やかな印象。全く重さを感じさせず徹底している。第一楽章、ピアノが入る前の各楽器の絡みは見事。金管も音色のパレットを使い分けて表現に彩りを与えている。
    第二楽章、オケの間を縫うようなピアノが美しい。これといった個性は感じられないが実力のあるピアニスト。

  13. 指揮:ズービン・メータ (1936- )
    ピアノ:マレイ・ペライア (1947- )
    オーケストラ:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1989 Live
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    SONY SMK87323
    オケは細かいディティールもきちんと拾って厚みを出している。フレーズごとのキメがかっこいい。弦の出来に比べると管がイマイチ。
    ピアノはダイナミクスの幅も広く良く弾かれているが、終始お手本のようでファンタジーに欠ける。メータとの相性も良く、大きな音楽作りができている。古典的な指回りは相変わらずだが、スタジオ録音の何倍も良い。区切りでひと呼吸置くので安定感がある。それにしても弦は艶があって良く歌う。

  14. 指揮:ジャン・クロード・ベルネード (1935- )
    ピアノ:エヴァ・オシンスカ (1941- )
    オーケストラ:コンセール・ラムルー管弦楽団 録音:1989 Live
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    CASSIOPEE 969 270
    プレイエル・ホールでのライブ。指揮者はアンジェ出身。ヴァイオリニストとして活躍しマルケヴィチに師事した。オケはフランスのオケに見られがちな凶暴さは影を潜め、厚めのサウンドで温かくピアノをサポートしている。
    オシンスカは例の作品を録音して話題になった人。繊細さと華麗さの微妙なバランス感覚で弾きこなしている。ヘ短調ではやや堅さもみられるが、ホ短調のフィナーレなどでみせる突っ込んだ感じなど唸らせるものがある。

1990年代

  1. 指揮:ルドルフ・バルシャイ (1924- )
    ピアノ:マルク・ラフォレ (1966- )
    オーケストラ:フィルハーモニア管弦楽団 録音:1991
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    TOSHIBA EMI TOCE-4103
    うまくまとめようとし過ぎているのか全体的に「こなしてる」感が強い。イマイチ。

  2. 指揮:ネーメ・ヤルヴィ (1937- )
    ピアノ:ルイ・ロルティ (1959- )
    オーケストラ:フィルハーモニア管弦楽団 録音:1991
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    CHANDOS CHAN 9061
    ヤルヴィはエストニア出身。ムラヴィンスキーのもとで研鑽を積んでいる。
    ダイナミクスの幅も広く、音楽的な構成感が全面に出た演奏。ピアノが入る前の前奏部分に若干リズムの揺れがある。第二楽章はテンポが速めにとられていて、そのまま広がらずに終わっているのでやや不完全燃焼。フィナーレ終盤、ホルンの最後の音を長く吹かせているのも意図を測りかねる。

  3. 指揮:カルロ・リッツィ (1960- )
    ピアノ:セタ・タネイエル ( – )
    オーケストラ:フィルハーモニア管弦楽団 録音:1991
    収録:ホ短調 媒体:CD
    CHANDOS CHAN 9061
    リッツィはミラノ出身。トスカニーニ国際指揮者コンクールで一位をとった実力者。厚めのサウンドもシャープなエッジで大きく歌わせる。ザクザクしたリズムの切り方も小気味がいい。
    ピアノは鼻孔でためて吐き出すような特徴のある音色。鮮明過ぎるタッチは好みが分かれるかもしれない。フィナーレは少し単調になっている。

  4. 指揮:アダム・フィッシャー (1949- )
    ピアノ:ツィモン・バルト (1963- )
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1992
    収録:ホ短調 媒体:CD
    EMI RED LINE 7243 5 72572 2 0
    指揮者はブダペスト出身。ウィーンでスワロフスキーに師事した。ゴージャスなオーケストラサウンドに90年代らしいスタイルで今風の解釈を聴かせる。
    ピアノは落ち着いたタッチで音を重ねる。指さばきはなめらかではないが、力に任せようとせず内面を照らす。第一楽章後半からすごく良くなるだけに前半の探り合いは余計に惜しい。第二楽章、ピアノが最後の音を弾いてから16秒も続く余韻は必要かどうか。

  5. 指揮:エーリヒ・ベルゲル (1930-1998)
    ピアノ:ブルーノ・リグット (1945- )
    オーケストラ:ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1992
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    DENON COCO-70624
    指揮者はルーマニアのブラショフ生まれ。ピアニスト、オルガニストとしても活動しフーガの技法の校訂などもしている。オケのサウンドは全体的に厚めで、やや、透明感に欠ける。ピアノは滑らかに歌い、節度のあるファンタジーとアグレッシブさを持つ。スタジオでの録音とのことだが反響の処理が雑で音の輪郭がやや眠い。楽器の配置が悪いのか、床が古いのか、マイクの感度が良すぎるのか、もう少し静かに聴かせてほしかった。ピアノ、オケ共に演奏の出来が良いだけに残念。

  6. 指揮:ハインリヒ・シフ (1951- )
    ピアノ:ニコライ・デミジェンコ (1955- )
    オーケストラ:フィルハーモニア管弦楽団 録音:1993
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    hyperion HELIOS CDH55180
    ハインリヒ・シフは指揮者としてよりチェリストとしての方が有名だと思う。長年ソリストとして活躍してきた経験を生かし、変な色気も出さずに上手くまとめている。ダイナミクスの幅も広く90年代のトレンド的演奏。珍しいのはフィルハーモニア管のリーダーとしてデイヴィッド・ノーラン (1949- )の名前がクレジットされていること。ノーランもソリストとして多くのオーケストラと共演している名手。現在は読売日響のソロ・コンサートマスターを務めている。

  7. 指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット (1927- )
    ピアノ:オリ・ムストネン (1967- )
    オーケストラ:サンフランシスコ交響楽団 録音:1994
    収録:ホ短調 媒体:CD
    DECCA UCCD-9032
    ブロムシュテットがサンフランシスコ響の音楽監督を務めていた時代の録音。統率されたキレのある弦と、豊かな響きの管がバランス良く個性的なピアノを支えている。伴奏というにはあまりにも上出来。
    ピアノは美しく弾くというよりも、美しさを引き出す演奏。第二楽章で成功している。独特の作品解釈に賛否は分かれると思うが、20代という若さでこの録音を残したことが、このピアニストにとってキャリアの足しになるのなら意味はあると思う。

  8. 指揮:フョードル・グルシチェンコ (1944- )
    ピアノ:マルティーノ・ティリモ (1942- )
    オーケストラ:フィルハーモニア管弦楽団 録音:1995
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    CONIFER CLASSICS 75605 51247 2
    オケは伸びやかに歌い、響きも厚い。ホ短調、第二楽章の出だしなどチャイコフスキー風でもある。ヘ短調の第三楽章、コル・レーニョの入り方は、ただ楽譜通り音を重ねているように聴こえて惜しい。
    ピアノは落ち着いたテンポでアーティストというよりは学者タイプの演奏。技巧的にも不足はないが、響きのコントロールに苦心しているところもある(ホ短調)。ヘ短調は文句無しの出来。

  9. 指揮:ギルバート・ヴァルガ (1952- )
    ピアノ:セケイラ・コスタ (1929- )
    オーケストラ:ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団 録音:1995
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    Quadromania 222122-444
    指揮者はロンドン出身。フェラーラ、チェリビダッケに師事している。演奏は全体的に力強く、明瞭な木管の流れが音楽構造に立体感を出している。録音のバランスのためか、全体に弦が抑えめなのが惜しい。ヘ短調、フィナーレのコーダ終結部手前292小節、全休止を意識しすぎて最後の全合奏がしぼんでいる。
    ピアノは指の先に弾力があり、キレの良いスタッカートなど非常に気持ちのいい弾き方。演奏スタイルはオーソドックス。きらめくような高音は昔のヴィルトゥオーゾを思わせる。ピアノ・オケ共にバランスも良く好演。

  10. 指揮:ミカエル・アビテシャン ( – )
    ピアノ:アン・ミヒョン (1973- )
    オーケストラ:モスクワ・オーケストラ 録音:1995
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    CLASSICAL PIANO ASSEMBLY RCD 30005
    オケはガナリ立てるように掻き鳴らす。ピアノのアンはソウル出身。踊りのステップのような軽快な歌い回し。フレーズの仕上げが雑な部分もあるが、目をつぶれるくらいスカっとする快演。ジャケ裏の印刷と曲順が違うのでギョっとする。

  11. 指揮:フランツ・ウェルザー=メスト (1960- )
    ピアノ:スタニスラフ・ブーニン (1966- )
    オーケストラ:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1995 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    EMI RED LINE 7243 5 72572 2 0
    サントリーホールでのライブ。ウェルザー=メストはリンツ出身。弱冠32歳でロンドン・フィルの音楽監督に就任した若手のホープ。指揮者35歳、ピアニスト29歳のコンビによる演奏だがフレッシュというよりも落ち着いてる印象。第一楽章、導入部10小節目以降の8分音符をしっかり短く切ることで音楽の流れの裏が見えてくる。上手いと思う。
    ブーニンはNHKで放映されたショパコンのイメージが強いが、ガラスのようなナイーブさは相変わらず。

  12. 指揮:ミシェル・プラッソン (1933- )
    ピアノ:フランソワ=ルネ・デュシャーブル (1952- )
    オーケストラ:トゥールーズ・キャピトール国立管弦楽団 録音:1997
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    EMI TOCE-55018
    指揮者はパリ出身。パリ音楽院でピアノをレヴィ、指揮をビゴーに学んだ。68年にトゥールーズ・キャピトール国立管弦楽団の音楽監督に就任し現在に至る。演奏はアーティキュレーションの付け方が細かくうまく機能している。特にチェロ、バスがよく歌っているが、オケ全体のレベルが非常に高い。
    ピアノは指よりも感覚が先に動くタイプ。速いパッセージもニュアンスに富み、オケとのバランスも絶妙で独りよがりにならない。ホ短調の技巧面での練り上げがほしかった。

  13. 指揮:イルジー・ビエロフラーヴェク (1946- )
    ピアノ:ヤン・シモン (1966- )
    オーケストラ:プラハ・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1997
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    Carlton CQ0041-2 031
    指揮者はプラハ出身。ノイマンの元でアシスタントを務めるなど研鑽を積んだ。オケは柔らかな曲線を描きながら奏でられる。ロシアのオケとは違った生々しい木の感触を感じさせる温かさ。ホ短調の冒頭でピアノのような音が聴こえる。
    ピアノはベーゼンドルファーを使用しているらしい。音楽的な力が有り余って仕方がないといった感じ。内容的にはヘ短調の方が充実しており、若々しく歌が翼に乗って飛翔していく。難を言うならキメのところでキメきれないというか、もう少し欲張ってほしかった。

  14. 指揮:尾崎晋也 (1959- )
    ピアノ:菅野美奈 ( – )
    オーケストラ:ルーマニア国立ディヌ・リパッティ交響楽団 録音:1997
    収録:ホ短調 媒体:CD
    ELECTRECORD EDC 233
    ピアノは1961年チェコ製のペトロフを使用していて独特の音色。響きの指向性は輝きがまとまりながら広がる感じで綺麗。ピアノが古いせいもあると思うが、打鍵を強くしなければ芯が埋もれてしまうのか、フィナーレなど音の洪水になっていて耳が疲れる。全般ペダルを踏む音も少し気になった。オケも含めて力演。企画自体はとても面白い。

  15. 指揮:スティーヴン・ガンゼンハウザー (1942- )
    ピアノ:サンチャゴ・ロドリゲス ( – )
    オーケストラ:ベルリン交響楽団 録音:1998
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    ELAN CD 82402
    オケはBSOとは別の団体。演奏自体はかなり巧く、録音も良好なので背景に埋もれず細部までよく聴こえる。ピアノのロドリゲスはキューバ出身。リズム感も良く所々ユニークな響きを聴かせてくれるが、後半ややバテ気味。

  16. 指揮:ダニエル・シュヴァイツアー (1953- )
    ピアノ:津田理子 (1949- )
    オーケストラ:チューリッヒ交響楽団 録音:1999
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    Cypres CYP5617
    スイスに限らずヨーロッパでは多くの国と国とが隣接している。ヨーロッパに住む知人に国境が近いところでは混乱しないのか尋ねたところ、どうせ地元の人間すら分かっちゃいないと言われ、日本人の自分にはピンとこなかった。スイスらしさとは何だろうか(そう言えば、コルトーもニヨン市の出身だ)。この録音ではオケの技巧面での完成度とは別に、全体的な音作りは成熟している。各楽器のバランスもいい。録音にはしっかりと時代的な要素が反映されているのが面白い。
    ピアノは師である安川加壽子女史の徹底的に主観を排した演奏とは反対に、内面から語りかけるように音を重ねている。啓蒙的な意味合いもあると思うが丁寧な演奏。

  17. 指揮:ワレリー・ゲルギエフ (1953- )
    ピアノ:ジャン=イヴ・ティボーデ (1961- )
    オーケストラ:ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1999 Live
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    DECCA UCCD-1001
    ロッテルダムでのライブ。緻密な構成で完成度の高い演奏を聴かせてくれる。第二楽章はいかにもスラヴ的な響き。ダイナミックな金管は曲にメリハリを与え、ドラマチックにクライマックスを盛り上げている。

  18. 指揮:ベルナルト・ハイティンク (1929- )
    ピアノ:エマニュエル・アックス (1949- )
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1999 Live
    収録:ヘ短調 媒体:DVD
    Geneon GNBC-4023
    録音は教会独特の「熱い」感じが伝わってくる。残響も多めで、マイクの位置が通常の収録と違うからか木管の音などが貼り付いたように聴こえる。個々の演奏家のレベルの高さを再確認できる。
    ピアノはさすがの出来で非の打ち所がない。オケとの掛け合いも抜群で、フィナーレの出だしなど集中しているのがよくわかる。ユニークな解釈で新しい魅力を聴かせてくれた古楽器での録音や、瑞々しい感性が光るオーマンディーとの録音など、アックスに外れ無し。

  19. 指揮:マチェイ・ニエショヴォフスキ ( – )
    ピアノ:エルザ・コロディン ( – )
    オーケストラ:ビルケント交響楽団 録音:1999 Live
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    BMP 0013
    珍しいトルコのオーケストラの録音。トルコは日本に負けずショパン好きな国で、1999年のショパンイヤーには首都アンカラでショパン・コンクールも催された。録音はその年のもの。粘っこい歌い回しが独特でギョっとする。響きのバランスに甘さもあるが、時代がかった歌い回しは歌舞伎にも似て日本人の感性に合うかもしれない。いちいち歩みを止めて音をしつこく伸ばす理由は?ヘ短調フィナーレのホルンはどうなってるのか?不思議な魅力満載のファンタジー溢れる内容。
    ピアノのコロディンは名教師ズビグニエフ・ジェヴィエツキ氏に師事している。こちらは正統派過ぎて逆に怖い。

2000年代

  1. 指揮:エロール・エルディク ( – )
    ピアノ:ギュルスン・オネイ ( – )
    オーケストラ:サンクトペテルブルク交響楽団 録音:2000
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    BMP 0024
    こちらはトルコ人コンビによるショパン。ロシアのオケは名前がややこしいが、サンクトペテルブルクso.は現在ドミトリエフが率いる名門オケ。演奏は予想外にクセは無くレベルの高さを見せつけられる。ヘ短調、ホ短調共に中庸のテンポでよどみなく歌わせている。
    ピアノのオネイはパリ音楽院でピエール・サンカン、ナディア・ブーランジェなどに師事した。タッチも強靭で音色の使い分けもでき、切れ込むような鋭さもみせる。こんなに上手い人がいるのだから世界は広いと思う。

  2. 指揮:ドミトリー・ヤブロンスキー (1962- )
    ピアノ:オクサナ・ヤブロンスカヤ (1941- )
    オーケストラ:モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団 録音:2002
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    Bel Air music BAM 2014
    親子共演。バラキレフ版(ホ短調)、クリンドワース版(ヘ短調)というかなり珍しい組み合わせ。音で確認できるというのは貴重。こういう録音はもっと増えてもいいと思う。
    ピアノは打鍵も強くアメリカ的。

  3. 指揮:シュテファン・ザンデルリング (1964- )
    ピアノ:アブデル・ラーマン・エル=バシャ (1958- )
    オーケストラ:ブルターニュ管弦楽団 録音:2002
    収録:ホ短調 媒体:CD
    Forlane 16833
    ザンデルリングは父、兄共に指揮者。演奏内容は前時代的(録音が悪いということではない)。ピアノのサウンドは典型的なヴィルトゥオーゾタイプ。昔の誰かの未発表音源が見つかったと聴かされたら信じたかもしれない。悪く言えば古いタイプの演奏家のコピー。好意的にみれば現代においては異端。フィナーレはサウンドの質が変わり、速い指回りで細かいニュアンスをつけるなど、いかんなく個性を発揮している。

  4. 指揮:トゥガン・ソヒエフ (1977- )
    ピアノ:ナウム・シュタルクマン (1927- )
    オーケストラ:ロシア交響楽団 録音:2002 Live
    収録:ホ短調 媒体:DVD
    CLASSIC WORLD CWP-1378
    指揮者25歳、ピアニスト75歳という異色のコンビによる録音。オケは上品で押し付けがましくなく伴奏に徹している。終始冷静な指揮ぶりには好感が持てる。ピアノのシュタルクマンは第5回ショパン・コンクール第5位。安定したまとまりのある音色でショパンのデリカシーを丁寧に表現している。もちろん技術的な面での衰えは隠せないが、含蓄のある音楽に教えられることは多い。

  5. 指揮:ケント・ナガノ (1951- )
    ピアノ:児玉麻里 (1967- )
    オーケストラ:ロシア・ナショナル管弦楽団 録音:2003
    収録:ヘ短調 媒体:SACD
    PentaTone classics 5186 026
    夫婦共演。ナガノを迎えロシアのオケらしさは感じないが大から小まで密度の濃いアンサンブルを堪能できる。
    ピアニストについての経歴は知らないが日本人らしくない歌い回し。上手いと思う。
    録音はすこぶる良好。

  6. 指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ (1923- )
    ピアノ:エヴァ・クピエツ (1964- )
    オーケストラ:ザールブリュッケン放送交響楽団 録音:2003
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    OEHMS CLASSICS BVCO-38021
    オケは細かくテンポを揺らし、歌に生命を吹き込んでいる。オケパートのアレンジはワイセンベルグ盤とほぼ同じ。ピアノがオケの間を揺蕩うような浮遊感はポーランドの流儀か。ヘ短調、第二楽章中間部、弦のトレモロの手前の両手オクターブの音作りはオケとの親和性も高く、一貫した制作へのこだわりを感じさせる。演奏はオケがオケだけに若々しさに欠ける。正直な作りではある。

  7. 指揮:ジュリアン・コヴァチェフ ( – )
    ピアノ:アンナ・マリコワ (1965- )
    オーケストラ:トリノ・フィルハーモニー管弦楽団 録音:2004
    収録:ヘ短調、ホ短調 媒体:CD
    Classical Records(SCRIABIN FOUNDATION) CR-046
    指揮者はブルガリア出身。オケも新しくフレッシュな組み合わせ。伴奏と言うには密度の濃い内容で完成度も高い。ピアノはエネルギッシュでダイナミクスの幅も広く、細かいニュアンスでフレーズに色彩を与えている。粗捜しすればホ短調のフィナーレやヘ短調、ラルゲットの中間部など惜しいところもあるが、全体的なレベルは高い。

  8. 指揮:ディミテル・マノロフ ( – )
    ピアノ:アルトゥール・モレイラ=リマ (1940- )
    オーケストラ:フィルハーモニア・ブルガリカ 録音:-
    収録:ヘ短調 媒体:CD
    INTERMEZZO MEZ 522
    録音年は分からないが80年代の録音と思われる。完全にモレイラ=リマを中心とした音楽設計で、オケは出だしこそ平凡だがピアノに合わせたとたん広がりをみせ生きてくる。特に木管の活躍が目立つ。モレイラ=リマはコンクールのファイナルでは残念な内容だったが今回は完璧。粘りのある歌い回しは独特で最後までそのスタイルを崩さない。ショパンをライフ・ワークとし、自分のショパンを作り上げている。

  9. 指揮:ハンス・スワロフスキー (1899-1975)
    ピアノ:カルメン・ヴィティス ( – )
    オーケストラ:ウィーン祝祭管弦楽団 録音:-
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    WORLD RECORD CLUB SCP 8
    ピアノ・オケ共にあまり上手くはない。オケはフレージングが先走ってる。変に慣れた感じがして好感が持てない。ピアニストについては情報は無し。程よいルバート、強い打鍵、ちょっとしたごまかし。

  10. 指揮:ルートヴィヒ・レオポルト (1908-1979)
    ピアノ:ステファン・アスケナーゼ (1896-1985)
    オーケストラ:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 録音:-
    収録:ヘ短調 媒体:LP
    Deutsche Grammophon 00289 477 5242
    指揮者はモラヴィア地方の出身。ウィーンで学んだ後、ウィーン国立歌劇場の指揮者を経てベルリンで活躍した。テンポは52年のレーマンの録音より遅め。各パートが自発性を持って生きた演奏を聴かせてくれる。第二楽章中間部のダイナミクスの差は最大級。吸い込まれそうなほど落ちる。ベルリン・フィルの魅力を余すところなく引き出している。
    ピアノは聴くたびに新しい発見がある。フィナーレ、最後の最後にスタッカートっぽくなるところがあるが、つまずいたのかワザとそうしたのかは判断できない。
    録音はステレオだが残念ながら録音年は分からなかった。

  11. 指揮:ゲオルク・ルートヴィヒ・ヨッフム (1909-1970)
    ピアノ:ヤコブ・ギンペル (1906-1989)
    オーケストラ:ベルリン交響楽団 録音:-
    収録:ホ短調 媒体:CD
    ROYAL CLASSICS ROY 6438
    第一楽章提示部、第二主題カット。指揮者はドイツ出身。ブルックナーを得意とした。各楽器の音色の使い分けが見事。ロマンツェなど合唱団が歌っているような響き。
    ピアノはフレーズの処理が雑。ヤケとも思える焦燥感はマリアン・フィラーと共通している。ダイナミクスの変化は、単にボリュームの大小だけではなく音色のふくらみも変化させる。音と静寂を完全に支配している。第一楽章、641-642小節の左手は1オクターブ下げてるのか、ピアノでないような音が聴こえる。録音は空気感のある素の音。
    ちなみに指揮者の兄で、やはり名指揮者のオイゲン・ヨッフムもブライロフスキーと共演した放送用音源が残っているが、こちらは奔放なピアノに吸い付くようなオケが見事でさすがの内容。

あとがき:

濃いいのをたっぷり聴いた後は、ギャリック・オールソンで口直しする。アメリカ人なのに薄口だし、なんと言っても「やっぱオケはポーランドに限るよなあ」としみじみ思う。至福のひとときだ。

今回視聴するにあたり、聴きながらメモを取った。このメモは個人的な感想であって、機嫌が悪ければ「イマイチ」とも書くし、忘れたころに聴き直して新しい発見があったりするのは誰にでも経験があると思う。なので自分と意見が違うとしても、あまり目くじらは立てないでほしい。機械的な粗捜しは意味がないのでなるべくしないよう心掛けた。

これから聴きたいという人のために役に立ちそうな情報はなるべく記載するようにした。(例えばヒストリカル系(復刻盤)だったら序奏のカットはあるかないかとか、録音状態や編集はどうかとか)書き漏れもあると思うが、文句はメーカーなり演奏者に直接してほしい。また、用語の使い方や表記で間違いがあれば遠慮なく指摘してほしい。

上では技術的なことも含め偉そうなことを書いたが、どれもみな素晴らしい演奏者であることに変わりはない。そのことについてクドクドと説明するよりも、代わりに次の言葉を引用したい。

「我々はショパンを美しく弾くことができても、決して美し過ぎることはない」 – ヤン・クレチンスキ

最後に、ショパンの作品と真剣に向き合い録音を残してくれた偉大な指揮者、偉大な演奏者たちには心より感謝。

こばやし

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